クリニックの災害対策

経営

日本は外国に比べて台風、大雨、大雪、洪水土砂災害地震津波、火山噴火などの自然災害が発生しやすい国土です。

災害発生時には、公助を待つだけでなく、自助、共助が社会的に重要とされます。災害対策はクリニックだけでなく、地域社会にとっても重要といえます。

クリニックの安全対策

施設設備の安全対策は、災害対策の第一歩だといえます。災害発生時の対処能力を高めるためには、災害を想定しての事前の準備が重要です。

大きな地震が起きる度に数多くの教訓を得て、クリニックの耐震化・防火化が進められてきました。発災時には、十分な時間稼働させることが可能な非常用発電設備の確保や水道の確保も必要となります。

その他にも見てみましょう。

内装・インテリアの安全対策

大きな設備什器やアルコールなどの燃えやすいものが多いクリニックだからこそ、きっちりとした安全対策が求められます。

窓ガラスの飛散対策ガラスフィルムを貼る・窓枠に補強材を取り付ける など
設備・機器・什器の転倒防止危険個所に転倒防止用金具を付ける・据付型ロッカーやキャビネットの設置・粘着マットや転倒防止ベルトでの固定 など
火災時の燃え移り防止火、防炎カーテンやパーテーションの使用・消火設備の定期点検・廊下・階段等に可燃物を放置禁止 など
防災備蓄の確保

食料、水、衣料品、衛生用品、防寒具、救急セット、ヘルメットなど、クリニックに必要な防災用品には従業員や患者、来訪者にも配布できるだけの量をストックしましょう。

感染対策が求められる昨今では、災害時の食料配布は至難の業です。そのため、一人分ずつ梱包されている個人備蓄を活用し、事前に配布し各従業員が管理する方法も有効です。

防災訓練と防災計画

災害発生時の職員参集と役割分担の計画策定と防災訓練を定期的に行うことにより、日常業務のうえで活動のポイントを確認しておくことが重要です。

役割分担がないと、いざという時に混乱してしまい、冷静に対応できずに避難が遅れてしまいかねません。

分担すべき役割には防災責任者、情報伝達係、火災発生時の初期係、避難誘導係などがあります。ただし、防火責任者に任せきりにするのではなく、経営者と相談しながら計画や準備を進めましょう。また、イレギュラー時に柔軟に対応できる組織作りが大切です。

事業継続計画(BCP)の策定

事業継続計画(BCP)
Business Continuity Planning

災害、テロ、不祥事、ウイルスなど事業継承が困難となるあらゆる原因を想定として策定される。 不測の事態が起きた場合でも被害を最小限に抑え、中核となる事業を継承または、早期復旧できるように平常時行うべき行動や緊急時の対応などを取り決めておく計画のこと。

BCP対策を実施することは、患者様や各取引先等から望まれることであるだけでなく、組織の社会的信頼の低下を防ぐことにもつながりますので、医療機関においても実施されるべきことと言えます。大規模災害等の緊急事態に対応できるような体制・計画を整えておくことが重要とり、緊急事態においてどの業務を優先するか、緊急事態でも最低限の業務を行うために必要なものは何か、といったことを検討しなければなりません。

クリニックにおけるBCP

クリニックにおけるBCPは民間企業のそれとは異なる部分もあり、「Medical Continuity Plan=医療継続計画」、略してMCPと呼ばれることがあります。災害発生後に、クリニックがどのように事業を継続するかを計画します。日々内容を整備しながらその実効性を高めていくことが重要になります。

地域との連携

災害時には平時よりも多くの医療需要が発生する可能性があります。そのため、平時の医療需要以上の医療提供能力を求められる場面でも対応できる体制を検討しなくてはいけません。地域医療連携センター、消防署、自治体などとの情報提供や協力体制を築いておくよ良いでしょう。

情報の収集と発信

BCPにおけるの要は「情報力」にあります。災害情報や医療情報を適切に収集するとともに、クリニックの営業情報や対応策、代替医療施設など適切な情報をタイムリーに発信するという双方向の活動が重要です。

人員・ライフラインの確保

実際に医療を提供するスタッフが必要になりますので、緊急時に招集についても検討が必要です。住所や緊急連絡先を把握していないことはないかと思いますが、緊急時の出勤判断を各自で行えるようなルールを決めておいたり、緊急時の出勤方法を予め定めておくことで、スムーズにスタッフを招集できます。

災害時には傷病者が通常時より増加し、医療関係者にも傷病者が増えることが予想されます。クリニックは、人員を確保して最低限の診療を継続するだけでなく、クリニック自体に、電力・ガス・水道・通信手段を確保することで、地域全体に安心感を与えることにつながります。

さいごに

東日本大震災では、多くのクリニックが建物流失、全半壊、床上浸水など大きな被害を受けました。震災直後から国は、現地の救済活動が円滑に行えるように、医療チームを派遣するなどの様々な対策を行いました。

しかし、電気や水などのライフライン停止により被災者の体調は悪化し、人工透析患者様などには深刻な影響がでてしまい、かつ避難所生活が長期化し、状況は厳しいものとなっていました。

「震災発生時に本当に迅速に行動できるのか」
「震災に伴う火災発生時、消火器が使えるのか」
「震災発生時に的確な判断に基づいて避難誘導させられるのか」

今までのような漫然とした避難訓練を行うのではなく、より実践的な対応の必要性が求められています。

これまでは自院の可能な範囲で震災に取り組んできたクリニックでも、今後は地域住民や行政機関を交えて対策に取り組む必要性が生じてきています。